カードをめくってお題に答える8冊の本で「タコ」紹介

TAKO BUNKO FILE 62 いっしきあきお 一色暁生

一色暁生建築設計事務所 建築家

2026

1冊目

お題

何冊も持っている一冊

答え

一千一秒物語

稲垣足穂 著 / 新潮文庫

明石で少年時代を過ごした作家・稲垣足穂。彼の処女作『一千一秒物語』が収められた作品集はいくつか持っていますが、私が初めてタルホと出会ったのは、この文庫版でした。月や星とケンカしたり、友達が月に変身したり──夢の断片を集めたような表題作も素晴らしいのですが、後ろに収められている短編がまた格別なんです。お月様、ヒコーキ、ガス燈、神戸の夜……。タルホにしか描けない幻想世界が爆発していて、たちまち虜になりました。ちなみに、私の事務所の1階で友人が営むカレー屋 CURRY HOUSE Babbulkund の店名は、『黄漠奇聞』に登場する架空の都市 “バブルクンド” に由来しています。

2冊目

お題

捨てられない一冊

答え

日本の民家(シリーズ全8巻)

学習研究社(Gakken)

中古で全巻セットを購入したものの、大変カビ臭く、めくるたびにふわっと匂いが立ちのぼります。それでも、全国の民家の貴重な写真と図面が大量に掲載されており、建築家である自分にとっては非常に価値のある文献で、どうしても手放せません。収められた民家や農家を見ていると、現代の日本社会が住宅において大切なものを失ってしまったという現実を突きつけられます。この本で知った神戸市北区の「箱木家住宅」は本当に素晴らしいです。近くなので、ぜひ訪れてみてください。

3冊目

お題

借りっぱなしの一冊

答え

夢の遠近法

山尾悠子 著 / 筑摩書房

兄に「稲垣足穂が好きなら」と勧められて読みました。これ一冊で、幻想作家・山尾悠子の世界にどっぷり浸れる濃密な作品集です。中でも、鉛直方向に無限に回廊が連続する“腸詰宇宙”と呼ばれる世界での奇譚の数々が綴られる『遠近法』は衝撃的で、文章を読み進めることに、これほどまでに興奮したことはありません。この作品集が好きすぎて他の作品もいろいろと読み漁りましたが、明石市立図書館で借りた『仮面物語』もとても好きでした。

4冊目

お題

繰り返し読んだ一冊

答え

マレー蘭印紀行

金子光晴 著 / 中公文庫

バックパッカーもヒッピームーブメントもなかった大正〜昭和初期に、世界を旅した金子光晴の放浪記。彼の旅は、どんなバックパッカーの旅よりも破天荒。比較的短く気合を入れなくても読めるので、旅先でちょっとずつ読むのもいい。詩人が綴る異国の情景のひとつひとつが美しく、今はなき情緒に溢れた南洋の風景が鮮やかに思い浮かんできます。特に終盤の、この世のものとは思えないほど美しい南の島の描写には、思わずうっとりしてしまいます。紀行文の傑作です。旅に出たくなること間違いなし。

5冊目

お題

飾っておきたい一冊

答え

島とクジラと女をめぐる断片

アントニオ・タブッキ 著 / 須賀敦子 訳 / 河出書房新社

『インド夜想曲』で知ったタブッキの他の作品が読みたくなって買ったのがこの本でした。買った理由は、まさにジャケ買い。カバーデザインが素晴らしく美しい。そして「島とクジラと女をめぐる断片」という邦題がまたいい。原題「Donna di Porto Pim(ピム港の女)」からしたらかなりの飛躍だけれど。内容はというと、大西洋に浮かぶアソーレス諸島を舞台に、クジラと港の女をキーに、タブッキらしい読者を思索へ誘う美しい断片と隠喩の数々。夢見心地。

6冊目

お題

子供の頃に読んだ一冊

答え

ダーナ

たむらしげる 作 / ほるぷ出版

初めて読んだのは、小学校の図書館で借りたときだったと思います。ひとりのおじいさんしか人間がいない、ダーナという荒廃した星でのお話。おじいさんが過去の華やかな日々を懐かしみながら口にする「なんて悲しい風景だ」という言葉に胸を締め付けられた感覚は、今でもページをめくると湧き上がってきます。全てのページが本当に美しく、絵をじっと眺めたり、好きなシーンを模写したりしていました。

7冊目

お題

途中で読むのを諦めた一冊

答え

バリ島

ミゲル・コバルビアス 著 / 関本紀美子 訳 / 平凡社

バリ島にホテルを設計する仕事を受けて、バリのことを知るために買いました。画家のコバルビアスが1930年代にバリに滞在し、文化や風俗について記した本です。『悲しき熱帯』のように文化人類学の記録として読んでも、旅行記として読んでも面白い。いまバリへ行くと、大量の外国人と伝統文化が共存している特異な環境が強く印象に残りますが、この本を読んでいると、その状況は1930年代の頃からすでに始まっていたのだと分かります。ボリュームが多く、途中まで読んでそのままになっていますが……次回バリへ行く飛行機の中でまた読みたいと思っています。

8冊目

お題

将来を決めた一冊

答え

印度放浪

藤原新也 著 / 朝日新聞社

大学の卒業旅行で初海外でインドへ行き、その強烈な衝撃で、完全に旅に目覚めてしまいました。大学院に入ってからは旅行記をいろいろ読み漁り、写真家である藤原新也の作品が一番好きになりました。「ホンマか?」みたいな話も多いのですが(彼の旅行記は半分が本当の体験、半分がフィクションのようです)、現地の深いところに入り込む彼の旅のスタイルに憧れ、コロナ禍まではインドやチベットなどアジア圏を中心に各地の辺境を目指し放浪しました。

★マークのある本は、版元品切れで入手不可となります。別判型で流通しているものもあります。そのほかの本に関しても手に入りづらい本もございます。

2026たこ文庫の人